群馬工業高等専門学校電子メディア工学科
高信頼LSI研究室

研究室紹介

初めに

私たち,高信頼LSI研究室では,半導体・集積回路の信頼性を向上させるための,様々な技術について研究を行っております.このページでは集積回路に何故信頼性が必要なのか,どのように信頼性を実現することができるのかについて示します.

研究のキーワード

集積回路,非同期回路,高信頼,転送用符号

1.集積回路とは?

何に使われているのか?

コンピュータや携帯ゲーム機,スマートフォン,デジタルテレビやカーナビなどの電気で動く様々な機械,デバイスによって我々の今日の生活は支えられています.さて,これらの機械に共通する機能として「計算をする」,「データを保存する」,「外部からの入力に反応する」などが挙げられると思います.実はこれらの重要な機能はほとんどが集積回路(IC:Integrated Circuit)により実現されています.これらの機能自体は,集積回路を使わない方法でも実現可能ではあるのですが,今日の機械の小型化,省電力,高速化といった様々な便利さは,全て集積回路によりもたらされたものと言っても過言ではありません.

どういう特徴があるのか?

集積回路自体の定義は「半導体基板上に実現された能動・受動素子と,多層に渡る配線を一つにまとめたもの」といったところです.反対語としては一つ一つの素子,配線単体である「ディスクリート」部品が挙げられます.ディスクリートと比較したときの集積回路の利点は,以下のものが挙げられます.

  • 複雑な回路を小さい面積の中で実現することが可能
  • 大量生産が可能なため,コストが安くて済む
  • 手で部品を組み立てる行程がないため,故障が少ない

2.信頼性とは?

セキュリティ(security)とディペンダビリティ(dependability)

きちんとした定義ですと「セキュリティ」が「システムが持つ情報に対する外部からの不正アクセス(攻撃,侵入,盗聴,改ざん)や機密漏えいなどの危険を,様々な防御策を用いて排除すること」で,「ディペンダビリティ」が「実行された仕事がどの程度正しく行われているかを明らかにするための品質を示すもの(J. C. Laprie)」となっています.簡単な理解では「セキュリティ」が「システムが外部から攻撃された時の防御力の高さ」,「ディペンダビリティ」が「システムが普通に動いているときの誤動作割合の低さ」と理解しておけばそう遠くはありません.但し,この辺りの言葉の定義は,使う人間,文脈等により結構違ってきます.一つ言えることはセキュリティとディペンダビリティは相反する概念ではない,ということです.

なぜ集積回路に信頼性が必要なのか?

ここでの「信頼性」とはディペンダビリティのことを指します.つまり「悪意のある攻撃者がいない状況での誤動作の可能性の低さ」です.一昔,といっても四半世紀程度前の集積回路は,一つ一つの素子が現在の素子の???倍の大きさで,使用する電気の強さ(電圧と言います)も???倍と非常に大きなものでした.そのような時代では「素子の大きさをちょっとだけ間違えた」,「電気の強さが予定していたより弱かった」,「温度が,素子の性能に影響が出るぐらい,とても低い場所で使った」場合でもとりあえずは正しく動作していたようです.しかし,現在の集積回路ではちょっとした素子の大きさ,電気の強さ,温度の違いが回路の性能(計算の早さ,使用する電気の量),もっと言うと回路の動作の正しさにまで影響を与えるようになってきました.そのため,今日においてもたくさんの研究者が「現在の集積回路の設計サイズにおいても,様々な条件下で正しく動作する(=ディペンダビリティが高い)ような回路」の研究を行っています.

3.非同期回路とは?

非同期とは?

現在,広く使用されている集積回路は同期回路と呼ばれる方法に基づいています.これは,集積回路の中にグローバルクロックと呼ばれる一定の周期で振動する信号があり,その信号とタイミングを合わせて各回路が動作を行うことにより,周りの回路との協調動作を行う方法です.それに対して,私が主に研究対象としている非同期回路では,ハンドシェイク方式と呼ばれる,要求信号,応答信号のやり取りに基づく協調動作をとる回路方式です.これにより,動作の必要がある箇所のみが動くため「低電力」,動作の終了を待ってから確実に次の動作に移るために「高信頼」など,様々な優れた点があります.特に我々の研究室では非同期回路の持つ「信頼性」の部分に着目して研究を進めております.

非同期回路の作り方

非同期回路の作り方は大きく分けると「符号化方式」と「束データ方式」の二つの方法があります.符号化方式では1ビットのデータを2本以上の信号線で表現します.そしてその信号線の組合せがあらかじめ決めた「ある組合せ」になった時に初めてデータとして認識する,という方法です.この方法では,「相手に届いた信号が符号語になった瞬間」と「相手にデータが届いた瞬間」がほぼ同じタイミングになるため,確実にデータを相手方に届けることができます.欠点は,データを送るための信号線の本数が増えてしまうことです.

もう一方の束データ方式では,データを送る部分は同期回路のそれと同じ(1ビットのデータにつき1本の信号線)なのですが,それとは別に要求信号,応答信号を送るための信号線を使います.そして,「相手にデータが届く→相手に要求信号が届く→相手がデータを保存する」という手順を踏むことによりデータの転送を実現しています.利点は同期回路と同じ演算器を用いることができ,少ない信号線の数で実現可能であること,欠点は何かしらの原因で要求信号の方が先に届いてしまうと,正しくデータを送ることができないことが挙げられます.

研究内容紹介

我々の研究室では,研究室名である「高信頼LSI」に関して現在以下の内容で研究を行っています.

  • 高信頼回路の構成に関する研究
  • 非同期回路(特に束データ方式)の遅延最適化に関する研究
  • 符号化方式に基づく転送回路に関する研究
加えて,私自身のバックボーンにもなっているプログラミング,ツール作成に関する研究も,徐々にではありますが行っております.